耐震基準から見る、住宅の耐震性について

耐震基準による被害比較

 

2024年1月に発生した石川県能登半島地震、そして2016年4月に発生した熊本地震では築年数の古い家の多くが、軽微・中程度の破損はもちろん、全壊・倒壊するなど大きな被害が出ました。そして、耐震性を考慮して建築された住宅でも一部大きな被害が発生しているのが、熊本地震、能登半島地震の調査で報告されています。

 

今回は、築年数による地震に対する耐震性を、建築基準法を交えながらご紹介したいと思います。

 

日本の耐震基準の歴史

年代別耐震基準

日本の耐震基準(地震の力に耐える性能基準)を振り返ると、まず1920年に日本の建築における初めての法律“市街地建築物法”が施行されます。その後1924年に改正され、1950年に現在の建築基準法が施行されます。

 

しかし、この建築基準法は震度5程度の地震で全壊・崩壊しないという基準でした。地震大国日本では建築基準法が施行された後にも震度6以上の地震が続き被害が大きかったことから、1981に基準が大きく改正されます。

 

1981年に改正された基準は“新耐震基準”と言われてます。この基準では震度6〜7の大きな地震でも全壊・倒壊しないことを想定されていましたが、1995年に阪神淡路大震災が起こり、新耐震基準の建物の被害が多数あったことから耐震基準が再度見直され、2000年に改正されました。この2000年基準が現在最も新しい基準として運用されています。

 

なぜ、新耐震基準の住宅が想定していた震度7で被害が大きいのか

2000年基準

1981年に改正された新耐震基準は、震度6〜7を想定した基準になっています。しかし、1995年の阪神淡路大震災、2016年の熊本地震、2024年の能登半島地震でも、新耐震基準の住宅で多くの被害が発生しています。この理由は、2000年基準に追加された基準を見ると少し見えてきます。画像にもありますが、

 

●耐力壁のバランスをとる

●接合金物の厳格化

●床の剛性(硬さ)のルール化

 

この3つが2000年基準の大きな改正内容です。

 

合板

【耐力壁のバランス】

写真のように柱と梁で家の骨組みを作っていき、その外側に頑丈な板を釘で固定することで耐力壁となります。柱と柱の間に、斜めの柱を入れる場合も耐力壁となります。ようは、地震の力に対して抵抗できる力のある壁のことを体力壁と呼びます

 

この頑丈な耐力壁で家を囲うことで耐震性を高めるのが一般的な手法となりますが、バランスが悪く一辺だけ耐力壁が少ない面を作ってしまうと、そこから家が破損していくという状況が生まれます。

 

この耐力壁バランスの基準を明確に示したのが2000年基準です。新耐震基準では耐力壁のバランスが悪い状態でも建築することが可能であったため、震度6以上の地震がきた時に構造上の弱い場所に地震の力が集中し、被害が大きくなるケースがありました。

 

 

金物サンプル

【接合金物の厳格化】

家を建てる時、コンクリート基礎の上に木の土台を引き、その上に柱を立て、梁を乗せて骨組みを作っていきます。その後、先ほどの頑丈な板などを張っていきますが、骨組み自体を“金属でできた接合金物”で固定することでも耐震性は上がります。

 

しかし、1981年の新耐震基準では接合金物の種類・仕様等がルール化されておらず、大きな地震によって被害が出る住宅が一定数存在していたため、2000年基準ではルール化されました。

 

【床の剛性(硬さ)のルール化】

壁の耐力壁を増やしても、床の強度がなければ壁の強さも発揮できません。そのため、2000年基準では床かの剛性もルール化されました。

 

現在も旧耐震基準・新耐震基準の建築物が多い

ここまで、2000年基準に至るまでの経緯をご紹介しました。現在では2000年基準を運用することで、日本の住宅の平均定な耐震性は向上したと言えます。しかし、2000年基準の仕様になっているのは、当然ながら2000年以降の住宅に限ります。

 

築年数別の住宅ストック総数

※出典:我が国の住宅ストックをめぐる状況について

 

こちらは、国土交通省の資料です。H30年時点のデータですが、住宅の築年数別の戸建数がまとめられています。この資料を見ると、1980年以前に建築された住宅は約24%存在していて、2000年以前に建築された住宅の割合で見ると約65%です。

 

このデータから分かるように、2000年基準を満たしている住宅は35%しかありません。新築で家を建てる際は耐震性能を上げることができるので問題ありませんが、中古の一戸建てを購入する際は築年数に気をつける必要があります。

 

築年数から逆算して2000年以降に建てられているものは、現行の基準をクリアしているため安心と言えますが、それより前の建物であるならリフォーム等で耐震性を向上させることが理想です。

 

築年数別のリフォームの必要性

※出典:我が国の住宅ストックをめぐる状況について

 

こちらは同じく、国土交通省の資料です。先ほどリフォーム等で耐震性の強化をとご紹介しましたが、国としては1980年までに建てられた旧耐震基準の住宅は建て替えを推奨しています。

 

とくに、1950〜1980年に建てられた住宅は要注意で、古民家と言ってもこの年代の住宅は1番危険性が高くなります。あくまで平均的な話にはなりますが、国の推奨通り建て替えるのが理想です。

 

逆に1950年までの住宅なら、構造上ある程度地震に耐える住宅もありますが、それも全てではありません。“古民家=地震に強い・弱い”となかなか断言できないのが古民家の難しいところです。

 

震度7程度の地震は、7.4年に一度のペースで発生している

南海トラフ地震のイメージ

南海トラフ地震は、東日本大震災の20〜30倍の被害をもたらすと言われる大きな地震で、100〜250年ほどの周期で定期的に発生しています。最後に発生したのは1946年の昭和南海地震で、2024年現在で78年が経過しています。次に発生するのがいつになるかは分かりませんが、もしかしたら数年後か数十年後に発生する可能性もありますし、150年後ぐらいになる可能性もあります。

 

 

また、南海トラフに限らず、近年は平均7.4年に1度のペースで震度7前後の地震が発生しています。10年に一度は定期的に大きな地震がくると想定し、住環境の耐震性向上や災害グッズの準備・定期的な見直し等、常日頃備えを意識しておきたいですね。

 

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